メディアエンターテイメント社では昨年、これからの10年を見据えてミックス・スタジオをリニューアル。長らく使用してきたICON D-Controlシステムをリプレースする形で、Pro Tools | S6システムを導入しました。同社所属のサウンド・エンジニアである山本雅之氏は、「ここ数年、ずっとPro Tools | S6システムに更新するタイミングをうかがっていました」と語ります。
「弊社がICON D-Controlシステムを導入したのは、スタジオを杉並から早稲田に移転した2006年のことで、もう10年以上酷使したわけですから、できるだけ早くPro Tools | S6システムに入れ替えなければと数年前から検討し始めました。Pro Tools | S6システムを最初に見たときは、ICONよりも精悍な外観だなと思ったのと同時に、コンパクトに凝縮されているなという印象でしたね。ICONが手足のようになっていたこともあり、最初は操作感に少し不安があったのですが、実際に作業してみるとまったく問題ありませんでした」(山本氏)
メディアエンターテイメント社が導入したPro Tools | S6システムは、32フェーダー/5ノブ仕様のM40で、核となるPro Toolsは、HDXカードが2枚装着されたパワフルな構成。サーフェースは、マスター・モジュールやモニター・ディスプレイ/キーボードを中央に配したレイアウトが採用されています。
「フェーダー数と各モジュールのレイアウトに関しては、使い慣れたICONの仕様を踏襲しようと考えていたので、ほとんど迷いませんでしたね。キーボードとトラック・ボール、サラウンド・パンナーは真ん中に配置して、なおかつフェーダーも操作しやすいレイアウトということを考えました。ノブに関しては、5基あれば十分だろうと判断です。以前のICONは、金属製の特注レールによって前後に移動できるようになっていたのですが、Pro Tools | S6システムへの更新後も特注レールはそのまま活かしています。これによって映画のダビング・ステージのように、クライアントさんはPro Tools | S6システムの前に座って音をチェックしていただけるようになっています」(山本氏)
また、Pro Tools | S6システムの導入に合わせて、2台あったPro Tools | HD I/Oのうち1台をPro Tools | MTRXに更新。Pro Tools | MTRXは、ADカードが1枚とDAカードが2枚のアナログ8ch入力/16ch出力という仕様で、MADIカードとDanteカードも装着されています。MADIカードには、サブのAD/DAコンバーターのDirectOut Technologies ANDIAMO 2や、スピーカー・プロセッサーのTrinnov Audio MC Proを接続。メインのスピーカーなど重要なものはPro Tools | MTRX内蔵のDAコンバーターで出力し、メーターや再生系はANDIAMO 2で出力するという使い分けになっています。
「オーディオ・インターフェースをPro Tools | MTRXにアップグレードし、Trinnov Audio MC Proで補正するシステムにしたことによって、音の印象はこれまでとまるで違います。今回、ルーム・アコースティックに手をつけるまでの予算が無かったのですが、新しいシステムによって、低域の出方や、音像を移動させたときの定位感やファンタム・センターの定位感、など、これまで感じていた問題がかなり改善されたのではないかと思います」(山本氏)
その他、モニター・コントローラーはタックシステム VMC-102が導入され、モニターだけでなくPro Tools | MTRX内のルーティングや、MADIで接続されているANDIAMO 2も集中コントロールできるシステムを構築。映像は、Pro Tools | Video SatelliteとArtist | DNxIOで再生され、Pro Tools | Video Satellite用のコンピューターにはサブのPro Toolsもインストールされています。
「Pro Tools | S6システムは、たくさん備わっているOLEDディスプレイがクッキリとした表示でとても見やすい。後ろのディスプレイ・モジュールも、メーターだけでなくクリップの波形も表示されるのがいいですね。フェーダーのレイアウトも自由自在に簡単に変えられるので、ミックス時の作業効率もアップしています。まだまだ勉強中で、機能を少しずつ覚えていっている感じです。今は新しいオモチャを買ってもらったばかりの子供のように仕事が楽しいですね。ゆくゆくはスピーカーも更新して、Dolby Atmosなどのイマーシブ・オーディオにも取り組んでいきたいと考えています」(山本氏)