ARTONE FILM(アートン・フィルム)は、2021年に映像の日本初グレーディング専門スタジオとして設立されました。東京・中目黒と原宿に本格的なグレーディング・スタジオを擁し、2025年12月現在、15名ものカラリストが在籍。映画やドラマをはじめ、NetflixやAmazon Prime Videoなどの配信コンテンツも数多く手がけ、その確かな技術は国内外で高く評価されています。そんなARTONE FILMは2025年7月、原宿STUDIOに大規模なミキシング・ステージを新設し、オーディオ・ポストプロダクションの分野にも進出しました。同社所属のシニア・リレコーディング・ミキサーである浜田洋輔氏は、「色も音も作品の世界観を左右するという点では一緒で、グレーディングのスタジオが音を手がけるようになったのは自然な流れだった」と語ります。
「僕とアリス(同じARTONE FILM所属のリレコーディング・ミキサー、劉逸筠氏)は以前、別のスタジオに在籍していたのですが、ARTONE FILM代表の石山(代表取締役の石山将弘氏)とよく、“色と音って、関係性がすごく深いよね”という話をしていたんです。別の要素のようで、接点が多いというか。であれば、その2つを一緒に手がけることで、作品のクオリティをさらに引き上げることができるんじゃないかと。そんなところから、今回のプロジェクトはスタートしました」(浜田氏)

ARTONE FILM シニア・リレコーディング・ミキサー、浜田洋輔氏
都心のオフィス・ビルの上層階に開設された『ARTONE FILM SOUND STUDIO』は、ヨーロピアンな雰囲気の美しい内装が特徴で、サウンド・スタジオでありながら、4K HDRに対応した有機ELディスプレイと、シネスコ・サイズの170インチ・サウンド・スクリーンが常設されています。音響設計/施工は、株式会社ソナが担当しました。
「今回、サウンド・スタジオを開設するにあたって考えたのは、“クリエイティブが生まれる場所にしたい”ということです。音の品質が良いのはもちろんですが、居心地がよく、作業に集中できる場所というか。音響設計をソナさんにお願いしたのは、最初にお話しさせていただいたときに、その理念にすごく共感したからです。音響的には、僕はデッドな空間があまり好きではないので、デッドにし過ぎないでほしいということはお伝えしました。映画の仕事もあるので、あまりデッドにしてしまうと、映画館で鳴らしたときに印象が変わってしまいますから。ただ、配信の仕事も多いので、そのあたりのバランスを上手く取っていただいた感じです。この物件はオフィス・ビルなのですが、上層階は天井高があったので、スタジオを造る上での障害は特にありませんでした。強いて挙げるなら、170インチのサウンド・スクリーンがエレベーターに入らなかったので、運び込むのが大変だったことくらいでしょうか(笑)」(浜田氏)
「内装に関しては、最初は宇宙船のような形だったのですが、他にはないようなスタジオにしたいと思ったんです。最終的に室内にアーチを造作したのは、天井高をできるだけ確保しつつ、“レイヤー感”を出したかったからですね。アーチを造らずに天井を上げてしまうと、スタジオが単なるボックスになってしまう。私たちにとっては、家の次に多くの時間を過ごす場所になるので、できるだけ気持ちのいい空間にしたいと思い、使用するマテリアルにもかなりこだわりました」(アリス氏)

ARTONE FILM リレコーディング・ミキサー、劉逸筠(アリス)氏
常設のモニター・システムは、Dolby Atmos®ミックスにも対応する7.1.4chという構成。スピーカーは、海外のシネマ・スタジオで高く評価されているMeyer SoundのAcheronシリーズが導入されました。
「Meyer Soundは、前のスタジオでも使用していたのですが、映画の仕事と配信の仕事を両立できるスピーカーなんです。音的には、解像度が高いだけでなく、力強さがあるのもポイントですね。すごくパワーがあるので、リスニング・ポイントによる差が少ないのがいい。Meyer Soundは、アメリカのスタジオではかなり使われていますが、日本のポスプロでオールMeyer Soundというのは、おそらくこのスタジオが初なのではないかと思います。スピーカーの設置位置に関しては、ソナさんには“できるだけDolby Atmosの基準から外れないようにしてほしい”とお願いしましたが、ガチガチに合わせたという感じではありません。一人で作業するスタジオであれば、スウィート・スポットでガチガチに合わせた方がいいと思いますが、実際の作業では後ろにディレクター、脇には別のスタッフが座ることが多いですから。スタジオにいる人が共通の言語で話ができるように、上手く調整していただきました」(浜田氏)

Meyer Soundで統一された7.1.4chのモニター・システム。フロントLCRがAcheron Studio、サラウンド・スピーカーがHMS-10、ハイト・スピーカーがHMS-5、サブ・ウーファーがX-400Cという構成。レコーディング・ブースにもMayer Sound Amieが設置されている
そして『ARTONE FILM SOUND STUDIO』の中枢となるのが、40フェーダーのAvid S6と3台のPro Tools | HDXシステムです。Avid S6の各モジュールは、ソナが製作したオリジナル・デスクに埋め込まれ、3台のPro Tools | HDXシステムはそれぞれ、HDXカード3枚/2枚/1枚という構成。オーディオ入出力は、1台のPro Tools | MTRX IIにすべて集約されています。
「Avid S6の良さは自由にカスタムできるところだと思っているので、ソナさんにお願いして特製のデスクを作っていただきました。このデスクは、デザインがオリジナルというだけでなく、モジュールの位置を変えたり、後から新しいモジュールを追加できる仕様になっているんです。たとえば、将来的にフェーダーの数を増やしたいと思った場合でも、モジュールと同じ形状のブロックを取り外すことで、フェーダー・モジュールを追加することができる。モジュール間のスペースやディスプレイの位置なども、案件に合わせて調整できるようになっています。それとサーフェス面がフラットになっているのも特徴ですね。角度を付けることも検討したのですが、何かを埋め込んだり物を置いたりすることを考えると、フラットの方がいいかなと。3台のPro Toolsは、基本的にはメイン、効果音、音楽という使い分けですが、必要に応じてダバーとしても使ったり、いつでも役割を変えられるようにしてあります。映像は、Pro Toolsのビデオ・トラックを使うこともありますが、メインはNon-Lethal Applications Video Sync Proで、Blackmagic Design DeckLinkで出力しています」(浜田氏)

オリジナルのデスクに埋め込まれたAvid S6
今回、スタジオを構築するにあたって、フル活用されたのがDanteです。レコーディング・ブースへのモニター回線をはじめ、リサージュやVUメーターもDanteで接続され、AESは一切使用していないとのことです。
「すべてをDanteで組んだのは、とにかく柔軟なシステムにしたかったからです。あれをこうしたいと思ったときに、ケーブルを差し替えたり、パッチをしたりという手間を無くしたかった。Danteならば、画面上で簡単に切り替えることができますからね。なのでPro Tools | MTRX IIとm908、2台のNeumann MT48、RTWのリサージュ・モニター、ヤマキ電気のTabVUをインストールしたWindows PC、それらすべてがDanteで繋がっています。Pro Tools | MTRX IIのAD/DAコンバーターは、マイク入力やAVアンプへの出力用など本当に最低限で、AESに関しては一切使っていません。この柔軟なシステムによって、ブースをコントロール・ルームとして活用することも可能になっています」(浜田氏)
最新のツールを積極的に取り入れることで、作業をできるだけ効率化していると語る浜田氏とアリス氏。Pro Tools 2025.10でインテグレートされたSoundFlowも、フル活用しているとのことです。
「SoundFlowは、Pro Toolsの操作をスクリプトとして組むことで、決まった作業を自動化できるソフトウェアですが、Stream Deckと組み合わせることで、作業をすごく効率化させることができるんです。たとえば、iZotope RXを使って処理をするときは、一度Pro Toolsの外に出してまた戻すという作業が必要になるんですが、僕らはそれを1日に何百回もやらなければならない。しかしSloudFlowでスクリプトを組んでしまえば、Stream Deckのボタン1押しで作業が完了してしまうんです。オートメーションの書き込みなんかも、Pro Toolsはいろいろなボタンを押さなければならなかったりしますが、SoundFlowを使えばすごく操作が早くなる。SoundFlowを活用することで、“捌きの作業”をできるだけ減らし、その分クリエイティブなことに時間を使うようにしています」(浜田氏)
「プラグインで最近よく使っているのは、Techivationとoeksoundですね。AIによって高性能な処理ができるプラグインなんですが、最近の製品という感じですごく賢いんですよ。不自然なかかり方にならないように処理してくれるというか」(アリス氏)

スタジオ後方には大きなソファが置かれ、十分な広さが確保されている
完成直後からフル稼働が続いているという『ARTONE FILM SOUND STUDIO』。このスタジオで最初に仕上げられた作品は、Netflixで配信中の『イクサガミ』で、関係者の反応もすごく良かったとのことです。
「ソナさんや冨岡さん(株式会社エム・ティー・アールの冨岡成一郎氏)にかなりわがままを聞いていただいて、日本にはないタイプのスタジオに仕上がったのではないかと大変満足しています。Avid S6に関しては、導入してすごく良かったなと感じていますね。フェーダーの操作が中心になるんですが、ノブも正面の映像を見ながらEQをしたいときに便利。アサインを柔軟にできるところも気に入っています。何より素晴らしいのが、動作がすごく安定しているところ。以前使っていたコントロール・サーフェスは、ネットワーク系のトラブルがあったりしたのですが、Avid S6ではまったく不具合はありません。今のところNetflixやAmazon Prime Videoなどの配信の仕事が中心なのですが、映画も始まっていますし、来年はDolby Atmos作品も控えています」(浜田氏)

左から、劉逸筠(アリス)氏、浜田洋輔氏、葛山茉保氏
Avid S6
Pro Tools | MTRX II
Dolby Atmosは、Dolby Laboratoriesの登録商標です。Danteは、Audinate Pty. Ltd.の登録商標です。
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